2023年6月例会 「新たな大戦」を回避するために―アジア・太平洋戦争を再考する―

 本庄十喜さんにお話を伺いました。
 本庄さんは北海道教育大学准教授として日本近現代史の研究・教育にあたっていらっしゃいます。北広島九条の会でお話を伺うのは3回目になります。


 ウクライナ戦争が続くなかで日本でも「新しい戦前」ということが言われるようになり、戦争の危険性は極めて高まっています。「反撃能力」の名のもとに軍備増強が国会審議を経ずに閣議決定によって進められたように立憲政治の瓦解は明らかで、学術会議任命拒否に見られる学問の自由の侵害、「国葬」の強行、政党政治の弱体化、政治不満とテロ、偏狭なナショナリズムの横行(日本だけではありませんが)などに現れています。
 そこでアジア・太平洋戦争の歴史に照らして「今」を映し出してみる必要があります。


 満州事変から日中戦争への歩みを見ても、戦争はいつの世も「自衛」から始まります。ナチス・ヒトラーはドイツ民族の「生存圏」を強調し、国際連盟脱退時や日独伊三国同盟締結時の外相・松岡洋右は「満蒙はわが国の生命線」と主張しました。関東軍の謀略による柳条湖事件から満州事変が始まると、政府の不拡大方針にも関わらず軍は暴走し、政府もそれを追認しました。一方、国内では「浜口雄幸首相狙撃事件」や「5・15事件」「2・26事件」などテロやクーデタ事件が多発します。そして「非常時」の名の下に共産主義のみならず、政府に批判的な自由主義思想まで取り締まられていきます。その根拠となった治安維持法は、国会審議ではなく緊急勅令により改正され最高刑は死刑となりました。「滝川事件」や「天皇機関説事件」など学問・思想も統制されていきます。

 
 偶発的な「盧溝橋事件」から始まった日中戦争は、政府の不拡大方針にも関わらず拡大します。「南京事件」も発生します。(政府も存在したことを認めている「南京事件」を今でも否定する人は後を絶ちません。)戦後、参議院議員として活躍した市川房枝も戦争を支持するようになります。軍部の暴走と無計画性、政府の見通しの甘さから拡大した日中戦争が長期化すると、日本は中華民国の背後を支えるイギリス・アメリカとの戦争に踏み切ります。初めは戦果を挙げたものの、無謀な戦線拡大もあって形勢は逆転し、悲惨な結末を迎えます。この間の兵士の犠牲の6割は飢餓と戦病死によるものという研究があります。その背景は、無計画性・情報軽視・人命軽視など日本軍の体質そのものです。「戦陣訓」では投降を認めず、敵の捕虜に対しても人権という概念はありませんでした。総力戦が続く中で「根こそぎ動員」が進められ、学徒出陣・学徒勤労動員、植民地の朝鮮・台湾の人々からの徴兵や中国人を含めた勤労動員(強制連行)などにも関わらず戦局は悪化の一途を辿ります。最後の1年間は本土空襲、沖縄戦、原爆投下など民間人にも多大な犠牲が生じます。

 
 戦争を終わらせることは本当に難しいものです。日本が敗戦を認めるタイミングとしては、「絶対国防圏」とされたサイパン島が陥落した時などが指摘されることがありますが、1945年2月には近衛文麿による早期講和の上奏もあります。しかし、却下され、4月からは沖縄戦、8月には原爆投下とソ連の参戦があり、ポツダム宣言を受諾します。その後、アメリカ軍の占領下にGHQ指令により諸改革が進められます。しかし、それは冷戦の進行の中で不徹底に終わります。公職追放や東京裁判もありましたが、結局は旧体制のかなりの部分が温存され、やがて「レッドパージ」「逆コース」へと進みました。

 
 今、私たちが「新たな大戦」を回避するためにしなければならないこととして、次のようなことがあると思います。
 マスメディアを鵜吞みにせず、自分の頭で考えて批判的知性を育むこと、歴史教育・憲法教育・政治教育・平和教育の重要性を再認識すること、偏狭なナショナリズムやアジア蔑視観を克服することなどです。
 また、安全保障というと国家の安全保障が語られますが、「個人としての人間」、人権を改めて捉えなおすことが必要ではないでしょうか。