2023年4月例会「いま憲法を考える―専守防衛と反撃能力」

 4月例会は、「いま憲法を考える―専守防衛と反撃能力」というテーマで、神保大地弁護士にお話ししていただきました。講演の概要をご紹介します。

 
 岸田内閣が閣議決定した安保関連三文書とは、国家安全保障戦略(基本方針)・国家防衛戦略(防衛目標の設定と方法・手段)・防衛力整備計画(防衛費総額や主要装備の数量)のことで、アメリカの安保戦略に沿ったものです。

 
 攻撃されたら防げないから攻撃される前に攻撃する「反撃能力」とアメリカとの一体性、存立危機事態でも敵基地攻撃を可能とするものです。政府は以前からの専守防衛から逸脱するものではないとしています。しかし、以前の政府見解ではICBMや長距離戦略爆撃機、攻撃型空母などの保有は許されないとされていましたが、今回の政府見解ではその例示もありません。

 
 「反撃能力」の根拠になっているのは「抑止力」という考え方です。しかし「抑止力」自体が憲法が禁じている「武力による威嚇」に相当するのではないでしょうか。さらに「抑止力」は相手の理性に訴えるものです。理性の通じない「ならず者」に攻撃される可能性があるからそれに備えるというならば、「抑止力」によって攻撃を思いとどまらせることはできません。第二次世界大戦時の日本に対して、アメリカの「抑止力」は機能しませんでした。

 
 また、抑止が破られた場合にはアメリカとともに戦うことになりますが、その実態はアメリカの指揮命令の下でということです。アメリカは海外に展開する戦力を削減していますし、万一戦争となったら長期化する可能性があります。それは多くの国民が犠牲となることを意味しますが、その覚悟があるのでしょうか。ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射、中国の軍事力強化など日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが強調されますが、例えば中国に軍事力で対抗できるでしょうか。さらに、様々な局面で衰退途上にある今の日本に侵攻しようとする国があるのでしょうか。防衛力を強化するといいますが、これは相手には脅威と映ります。自ら「敵」を煽りながら、自身の不安を高めることになります。

 
 今回の安全保障戦略では軍事面ばかりが強調されていますが、本来の安全保障には食糧やエネルギーなど切迫した課題がたくさんあるはずです。万一、戦争という事態になったら、食糧・エネルギーなどは自給できなければなりません。軍事力だけを強調して、切迫した現実の危機から目をそらしているのではないでしょうか。少子高齢化で縮んでいく日本の現実は、経済の停滞、積みあがる国の借金、環境問題への取り組みの遅れ、格差社会、情報公開度の低さ、危機対応力の無さ、中国をはじめとする国々と貿易しなくて生きてはいけないのにアメリカに追従するだけの外交など、危機に直面しています。

 
 防衛力に名を借りた軍事力強化ではなく、別の道を選択すべきではないでしょうか。強大化する中国に対してASEAN諸国は二者択一ではなく是々非々の姿勢ですし、EU諸国は資源の共同活用から始まって経済協力・統合そして政治的統合を目指してきました。そこにヒントがあるのではないでしょうか。また、個人として諸外国の人々と交流を深めていく、教育や医療や福祉の充実など長い目で見た国力の充実を図ることが重要です。そのためには、私たちが当事者として政治を変えていかなくてはなりません。